社会課題解決AIスタートアップ チャレンジ 2025

デブを痩せさせるのか、それとも…/高校生・大学生の社会課題解決AIスタートアップチャレンジ【レポート(前編)】

2025年度、武庫川女子大学主催で「社会課題解決AIスタートアップチャレンジプログラム」を行った。こだわったのは、事業プランはざっくり作って、とにかくビジネス化に挑戦すること。プランなんて、生成AIが秒でつくってくれるのだから。

だから募集時には、「"モヤモヤ"を持って、来てください」とだけ書いた。

<Web案内文>

うっかり参加した"モヤモヤ学生"は、20名。参加人数順に、武庫川女子大学(西宮市)、神戸学院大学(神戸市)、兵庫県立夢野台高等学校(神戸市)、立教大学(東京都)、神戸女学院大学(西宮市)、立命館大学(京都府)、白百合女子大学(東京都)。6大学1高校。

本当のビジネスと同様に、多様な人と共創しないとプログラムの意味がないと思ったからだけど、実際に他大学の受け入れに合意したムコジョはちょっとすごいと思う。

というわけで、とくにエリートでもなければ意識高くもない、うっかり飛び込んだメンバーと試行錯誤した1年間の超ダイジェストと、最終発表内容のレポートです。長くなったので、今回は前編。

■ 事前準備:"学生起業支援"をよく知るメンターが集まる。

私はいわゆる「起業家」で「教育家」でもあるので、この10年ほど、とくに学生や女性や地方で多くの起業支援事業やサポートをしてきた。いつもいちばん困るのは、「メンター」の確保だ。そう話す起業支援組織はめちゃくちゃ多い。

「起業」は何かしらこれまでなかったことを始めるので、事前に評価できない(そもそも「当たるビジネス」が事前にわかれば誰も苦労しない)。なのでメンターは、答えを教えるんじゃなく、挑戦者に欠けている視点の情報をさりげなく出し、問いかけながら、挑戦者が自分のビジネスを仮説検証していくサイクルをはやめる役割を担う。

最重要ポイントは「自分にとっての"答え"に誘導しないこと」。この寸止め感が、めちゃくちゃ難しい。なぜなら人間は自分の成功体験を絶対視しがちだから。しかも相手は「ふわ〜! ビジネス先輩かっけーっす♥」と、ついつい「学ぶ」とか「憧れる」とかのスタンスを取りがちだ。そこに酔わないのは、プロの意識がないとけっこう難しい。

ということで起業メンターには、(固有の経験にもとづき)挑戦者の何倍もの質と量でビジネスを仮説検証する力と、一方で「それを言わない」という挑戦者への敬意が求められる。なのでなかなかいない。

「教えず、されど自ら考えるきっかけと材料を与える」このさじ加減は、とくに相手が卵の殻を割って出てきたばかりのヒヨコみたいに初めて接する社会人にどっぷり影響を受けやすい学生が相手の場合、さらに難しくなる。 なので今回は、私がこれまで現場を共にしてきて信頼している学生起業メンター経験者で、かつ、今年度のテーマ「ビジネス」「AI」「社会課題解決」にそれぞれ専門性をもつひとたちに集まってもらった。

<良いメンターが揃えば仕事は半分終わり、ってくらい重要。>

■ 8月5日:「モヤモヤ」から課題を見つける練習。

初の顔合わせは、「キックオフ」というのも格好良すぎるかと思って、「練習会」にした。不安そうな20名にまず、「モヤモヤ」って何の状況に対してだろう? その状況がモヤるのはなんでだろう? そこに隠れてる私の「ワガママ」って何だろう? とそれぞれ言語化を促していく、これは私オリジナルのワガママ・ワークショップ。

学生は、とても良い子が多い。ごく真面目に誠実に、勉強して知った"社会課題"を解こうとしてしまう。でも以下のふたつの理由で、私たちのプログラムでは絶対にそれを出発点にしない。

  1. 起業なんてしんどいので、いろんな挫折を乗り越えながら続ける力がいちばん重要。それには「自分事」=それを解決したら自分が必ず幸せになる自分課題の方が良い。
  2. 経験が浅い状態でビジネスの仮説構築をするにあたり、自分事じゃないと顧客の解像度が低すぎて先に進めなくなる(アフリカの貧しい子ってどの国? なんで貧しい?に答えられないレベルだったりする)。

ちなみにこの背景には、教育学者パウロ・フレイレのエンパワーメント理論もあったりする。私は稼ぐだけの起業じゃなくて、元気に社会を変えていく起業をしてほしいから。

<やってきた中高生の社会課題解決実践プログラムも「ワガママ」がテーマ(2021-24)>

練習会の後半は、学生起業メンターとしてチームを世界一に導いたこともある廣川克也さんによる、「真の課題の見つけ方」ワークショップ。参加者が仮にチームをつくり、状況から課題を見出して仮説を構築するというのを試行錯誤でやってみる。大事なのは、仮説構築に入る前、課題の設定ということを実感。

<「京都駅周辺の交通渋滞」は状況の話。では課題とは何?から考える>

■ 9月13-14日:1泊2日の合宿で、チームづくりから、初期ビジネスプラン発表まで。

はやいな! と思われるかもしれないけど、ビジネスの現場で最初の事業プランづくりに3カ月かけるスタートアップはいないんじゃないかな。コンセプト決めたらとにかく市場に問い続けるのが大事。ビジネスになるのは「正しい事業プラン」じゃなくて「市場を見つけた事業プラン」だから。

学生たちはあらためて、自分のもやもや&ワガママから、自分たちでチームを組成。最終発表日までのスケジュールも自分たちで決める。当たり前だけど、時間も予算も自分で配分を決めるからこその起業・経営。他人が決めたスケジュールで動く起業なんて、聞いたことない。

<どんなテーマで、誰とチームを組むか。それを自分で選択できるのが起業。>

チームを組んだら、勉強会を思い出しながら、簡単なワークシート(※私はワークシートづくりが好きなのでよくつくる)を使って、さっそく事業プラン構築に取り組んでみる。

<まずは自力で考え抜いてみる。>

とはいえ、高校2年から大学2年まで、ビジネスもなんもかも初めて。なので「短い時間で本質的なことを高速インプットし、すぐ事業プラン構築にアウトプットする」仕組みにして、専門性をもつメンター3人がスタンバイ。

モデレーターの私が全体の様子を見ながら、参加者に「いまこの話聞いとく?」と確認して、聞きたいならメンターにいきなりお題を出して講義をしてもらうという、いわばジャズ的進行にした。ジャズと同じで、メンターの力量がすごく高いから成立する。メンター大事。(並のメンターなら怒ると思う)

●AIでできること・できないこと

仮説づくりに取り組み始めてまもなく、どうも上手に生成AIを使った方が良さそうだったので、AI講義を入れることにした。アメリカ在住でいくつものグローバル企業の技術アドバイザーをするコンピュータサイエンティスト・吉平健治さんに、LLMの仕組みやハルシネーションが起きる構造など、AIの基本から、上手な使い方(問いの投げ方/プロンプトの作り方)、具体的サービスまで学ぶ。

じゃあAIが出せないことってなんだろう。ビジネスを構築するうえで、自分たち固有の価値を出せるところってなんだろう。めっちゃ対話型で、めっちゃ言葉とチョコレートが飛び交う、たぶんめっちゃアメリカ式の講義。

<著書も多いトップエンジニア×素人学生。「わかったふり」ゼロの、深い理解>

講義後、付箋をいっぱい貼った模造紙の上で、学生たちがどんどん生成AIを使い始めた。リサーチや仮説構築がどんどんできる。めっちゃいいかんじの解決策が、サラッと出てくる。競合分析まで秒でやってくれる。ビジネス初心者の学生たちから見ると、突っ込みどころもない。なんか、これ(で)いいんじゃない?(※とはいえ振り返るとこの頃の生成AIは、幸いにもまだ性能低かった。画像生成Nano Bananaもリリースされて数週間)

●デブを痩せさせるのか、それとも…

思わずAIに流されそうなムードが漂い出したところで、阪神・淡路大震災時、大学生ながらこどもたちの学習支援でNPOを立ち上げ、現在はさまざまな教育機関や財団の審査員などをつとめて界隈で知らないひとはいない(わけわないんだけどそのくらいドン的な)能島裕介さんに、「社会課題解決」について話してもらうことに。

「僕はデブでした。でもいまは普通の範疇です。それは課金して解決したからです」 なんて嘘のない言葉! 胸に刺さる。「このプログラムは社会課題解決がテーマです。デブを世間の目にあわせて痩せさせるのか、デブをデブのままでも生きやすい社会にするのか。一度は後者まで考える必要があるのではないでしょうか」 がーん。

<投影資料には「Happyな奴隷ライフを作ろうとしていないか」という社会起業家・田村太郎さんの言葉。>

ハッとした学生たちが、「個人の課題をお手軽に解決」という捉え方から、あらためて「社会構造の課題」へと思考をのばしはじめる。だけど、深く調べれば調べるほど、「結局、国の制度が悪い…?」「私たちではどうしようもないんじゃないかな…」と、戸惑いと絶望の表情になっていく。

うん、社会課題って、パッと解決できるわけない。いろんな先人が知恵とか勇気とか金とか労力とかあらゆるリソースをできる限り突っ込んでやってみて、それでも解決できずに残っちゃっているのが、いまの社会課題なのだから。だから学生プログラムで「社会課題解決」をテーマにするのはどうかと思うよ(←と私がずっと悩んでいるところ。ただ、次世代が発見する社会課題という価値が大きいと考えている)。

でも、だから、私たちは「ビジネス」をつくるんだ。

●そもそもビジネスって、何?

実は、教育&ソーシャルセクターで活動してきた私は、定義としては「起業家」だけど、「ビジネス」にはけっこう苦手意識があった。この1年はVCが入ったAIスタートアップCEOとして、わりと初めて今日らしいスピード感での「ビジネス」をやってみてそれまでの自分の視野の狭さに気づいたりもしたのだけど、とはいえ私自身は「どどんとスケールするビジネス」の成功体験はない。稼ぐのは下手だ。

そこで、上場金融会社の歴代最年少の代表取締役社長という経歴をもち、いまは自身の投資会社を経営し、これまで100社以上への投資をするなどビジネスに深い知見をもつABAKAM代表・松本直人さんに「そもそもビジネスとは」を話してもらう。いまさら? うん、たぶん、このタイミングだからこそ。

<経営者としての経験値をまるごと学生支援に。>

学生にとって「仕事」とはまだ、「アルバイト」だ。「すでに出来上がった仕組みに、自分の時間を売って、(多くは我慢料として)対価を得るもの」という認識。だけどこれから自分たちでつくろうとするビジネスは違う、たぶん。

たとえば、顧客は「正しいこと」にお金を払うんじゃない。「満足」にお金を払う。だから結果的に持続する。だから結果的に、社会課題の一部を解決する(こともある)。そのために、自分がきっと誰か(自分たち)を幸せにできる、いちばん小さくて確実なことから始めよう。

頭の遠くに社会課題を置いたうえで、そこに届く一本の道となる「ビジネス」をつくる。

こうしてメンターの講義を挟みながら、学生たちはアウトプットをつづけ、風呂上りもすっぴんで検討を続け(※学生の強い希望で写真はアップしません)、翌日昼に「初期ビジネスプラン発表」を行った。

ここで各メンターから厳しいフィードバックを受け、各チームで見直しポイントを整理し、今後3か月間のスケジュールを立て直したところで、1泊2日の合宿は終了。

ちなみに、ちょうどコロナで中学や高校の修学旅行に行けなかった世代も多く、「はじめて学生とお泊りした!」と喜んでいた姿に、メンターのおじちゃんおばちゃんはそっと涙ぐんだりしていました…。振り返りアンケートでも、合宿がいちばん印象深いという学生が多かったです。

■ 9-12月:フィールドワークで、顧客の解像度を高める。

合宿後は、チームごとに進行。学校も住んでいる場所も大きく違うので、それぞれオンラインも駆使して協力しながら、アンケートやヒアリングを進める。

最初は「仲間内でアンケートを取ったけど集まらない」と話していた学生が、覚悟を決めて授業終わりの教室に飛び込んでアンケートを取ったり、「やっぱりLINEのDMでのお願いがいちばんきく!」とチームを超えて情報交換したり。

同時に生成AIを大活用して、とにかくプロトタイピングを進めた。アプリなら、専門知識なくても1日あればできる。これも、先につくった学生が、自然と教える立場になる。とにかくどんどん作ってみて、誰かに使ってもらって、フィードバックを得て改良する、というのを繰り返す。

この時期は、メンターはわりとぼんやり見守っている。関心をもって進捗を聞くけど、進捗管理は本人たちに任せる。決して手を抜いているのではなくて、教育家イリッチのコンヴィヴィアリティ的な学び合いを促す意味もある。そしてそれよりなにより、そもそも学生たちは単位も出ないのに参加しているので、大学生の後期が始まる9-10月はいろいろ忙しいのだ。みんなお金がないからバイトもいっぱい入れてる。実はこのあたりのスケジュール感も、学生起業支援の難しいところだ。フルタイムの社員より、よっぽど時間がない。

そうして冬休みがはじまる前の12月半ばに、中間発表。メンターから最終フィードバックを受け、最後に、企業や想定クライアントからフィードバックをもらうところに進む。

■ 12-2月:企業や想定クライアントへインタビュー、いけるところまで実証実験。

私はこの1年スタートアップ界隈で、多くの英語3文字にまみれてきた。たとえばPoC(Proof of Concept/概念実証)、新しいアイデアや技術が実現可能か、効果があるか、本格開発の前に試作・実証段階で検証すること。

ラーメン屋を始めるのに、いきなり麺を特注したり店舗を借りたりする前に、まずは家でつくって家族や友人に食べてもらって反応見ようぜ、というかんじだと思っている(ちなみに私はだいたいラーメン屋にたとえて話すクセがある)。

(本プログラムのWebから)

PoCをできるだけやった状態でプラン発表することで、最短でMVP(Minimum Viable Product/最小機能版)をリリースでき、最短でPMF(Product-Market Fit/プロダクトと市場の適合)が達成できる状態…つまり「商品を出したら売れる状態」に、できるだけ近いところまで持っていくことができる。

事業プランが当初の仮説通りに行くことはほとんどなく、すべてのチームがさまざまなフィードバックのたびに、ピボット(軌道修正)を繰り返した。そんな「市場の反応を見て、考えて、次の挑戦をする」ダイナミックな試行錯誤の連続で自分と社会の接点をつくっていくのが、起業でありビジネスだ、と私は思っている。

起業の1年後生存率は6割、スタートアップの場合は5割を切るとも言われているらしい。んじゃあ"死んだ"人たちは死に損なのかというと、そうではなく、"経験値"を手に入れていると思う。

それは、未知の世界で何かを形にする経験であり、きっとその人たちの未来を力強く支えてくれると思っている(なので、起業の際に立ち直れないほどの資金調達はしない方が良いと思っている)。

…という運営の思いはともかく、クリスマスやお正月を挟むこの時期に、各チームはできるだけ多く実証実験を行い、クライアント候補やその事業に関する知見をもつ企業に話を聞きに行った。

  • シェアキッチンチーム:話を聞いてくれたファームアンドカンパニー代表の光岡さん、キッチンを見学させてくれたケンミン食品さん、プレゼン機会をつくってくれたフジッコ食品さん。
  • ハピバチーム:話を聞いてくれたワールド・ワンさん、実証実験までさせてくれたキッザニアさん。
  • フルマチーム:話を聞いてくれたYahoo!オークションさん
  • ジャパングルメコンパスチーム:話を聞いてアドバイスをくれた神戸市観光局さん、JALさん、さらに具体的支援も伝えてくれたフードピクト菊池代表
  • スマートバックチーム:大人数で本気のフィードバックをくれ当日も応援にきてくれたNECさん

心より、お礼を申し上げます!

下は、終了後の学生ア>ンケートから。

社会は堅苦しく、難しいところばかりだと思っていましたが、企業インタビューや先生へのインタビュー、本コンテストメンターの方々のアドバイスやお仕事を見ていて大人って楽しそうだな。と思えました。
挑戦する時や自分の考えを相手に伝えるときは、少し緊張と不安が伴いますが、サポートしてくれたり、一緒に楽しんでくれる人が周りに必ず誰かしらいる!という、勝手な解釈かもしれませんが、社会に対する不安から少し軽くなりました。

卵の殻を割って出てきた直後に出会う大人の役目って、大きいな。まさにソーシャルキャピタルを測る指標は社会への「一般的信頼」というのがよくわかるコメント。

そんなこんなで、いよいよ2月17日、最終発表の日を迎えたのでした。

→後半へつづく(これから書きます)